秩序と余白、律動を感じて -manamiの糸編みアクセサリー
大胆なデザインで魅せるmanamiのテキスタイルジュエリー。糸編みの立体感と、コットンやシルクの素材感が作り出す美しい陰影が魅力的です。
幾何学的な紋様モチーフが視線を集める大ぶりなピアスは、パールのネックレスなどと合わせれば華やかなシーンでも、シンプルな装いのカジュアルシーンでもスタイリングを楽しむことができるSIROKUでも人気のアイテムです。
今回は作家のmanamiさんに、糸編みとの出会いからアイデアが生まれる背景、アクセサリー制作へ込める想いなどについて伺いました。
はじまりはかぎ針との再会
manamiさんが編み物を始めたのは、30才を過ぎてからでした。それまでは、手芸や“もの作り”といった世界とは全く関係のない生活だったといいます。
「たまたま置いてあった、かぎ針を手に取ったことが、きっかけでした。
小学生の頃に一度だけかぎ針でマフラーを編んだことがありましたが、それから20年以上も経っているのに自然と手が動いて、編み方を覚えていたことに驚きました。このときスイッチが入ったんだと思います、すぐにかぎ針編みに夢中になりました」
独学でさまざまなものを編んでいる中、繊細な糸を使ったかぎ針編みで制作を行う、糸編家のjungjung(ジュンジュン)さんの作品に出会い、manamiさんも糸でアクセサリーを編み始めます。
ほどなくしてハンドメイド作品の展示販売イベントへの参加をきっかけに作家活動をスタート。そして、前述のかぎ針との再会から5、6年が経った頃、海外で開催される個展に声がかかるという夢のような機会に恵まれます。
「すべてが初めてのことで必死でした。せっかく声をかけていただいたので、応えたい気持ちと、展示会へ向けての準備の事などを考えて、このタイミングで本格的に作家活動へシフトしました。」
manamiさんの創作活動におけるポリシーは、『作品を手にした方が喜んでもらえるものを』、ということ。
「普通に会社勤めをしていて、こういったもの作りへの憧憬があったわけではない中、応援してくださる人たちや 、うれしいご縁、機会に恵まれて思いがけず今の作家活動があります。だからそのことを忘れずに頑張りたい、恩を返していきたい、もっと喜ばせたいという思いが常にあります」
デザインは自然の秩序から。余白に宇宙を感じて
manamiさんが生み出すデザインは和の装いにも親和性が高く、SIROKUでの取り扱いはありませんが、羽織紐や帯留めなどの和装小物もとても人気があります。
「この羽織紐を作るときは、細いシルクの糸を使用します。シルクの糸は非常に繊細で、針を同じところに何回も通すと切れてしまいます。だから緊張の連続の中編み進めます」
規則性と不規則性が混在した編地の円形モチーフは、幾何学的で数学的、そしてどこか禅の雰囲気も感じます。そしてモチーフの重なりや連なりが作り出す、軽快なリズムが気持ちがいい。
こういったデザインのインスピレーションはどこから?
「デザインは、木々や空、足元の草など毎日の生活の中でヒントを得ています。確かに日本人の中の余白というか、引き算的なデザインを意識して作っている部分はあります。天文学や仏教美術にも強く興味を惹かれるので、私の好きなものや世界観が表現できているとうれしいです」
「このラリエットは、植物の『なずな(ぺんぺん草)』がデザインの発端です。この構造が思いついたときの感覚は今でも強く覚えています。“降りてきた“という表現がぴったりでした。
でもひらめいたアイデアを設計図などに落とし込んで、そのまま編むようなことはしません。 はじめに『このデザインで作ろう』と編み始めても、手を動かしているとアイデアがどんどん浮かんでくるので、編み進めながら別の形に仕上がることが多いです」
途切れる、つながる、結ぶ。一本の糸でつくる
manamiさんの初期の代表作『波紋ネックレス』です。
「これは、それぞれのモチーフの大きさや、編み目のすき間などのバランスを考えながら、編んでは解いてを繰り返して、完成まで1日10時間以上編み続けて2週間かかった思い出深い作品です。
ものすごく集中力と忍耐力が必要なので、今ではもう作るのは難しいかもしれません。それに当時と今では手の感覚が違うので、同じような抜けや風合いが表現できないと思います」
いくつものモチーフが重なり合った特徴的なデザインのmanamiさんのアクセサリーは、1本の糸で途切れることなく仕上げられています。この『波紋ネックレス』のような大作も1本の糸からできていると聞いて驚きました。 「中には1本の糸で仕上がっていない作品もありますが、ほとんどの作品は『1本の糸で繋がっていて、解くと1本の糸に戻る』ということが、なんとなく私のスタイルになっています」
「1本で仕上げることに固執しないで、もっと幅広いデザインができるようにしようと意識してはいるのですが、連続して同じ感覚で編み続けるのが好きなんです。それに、途中でハサミを入れるとせっかくの緊張が切れてしまうような感覚になって、そうするとバランスなどが変わってしまうような気もするのです」
デザインと編み進め方は、どちらも一緒に考えていくのですか?
「作りたいデザインが先にあります。それを1本の糸でどのようにすれば最後までつながるのかを考えていると、あるときその構造が頭の中にポッと浮かぶんです。思いついたときは本当に爽快で、最後までうまく編めたときは達成感で心が躍ります」
心の静寂を大切にして作品を仕上げる
「編むのは楽しいし、考えるのも楽しい。
『どうやって編もうかな』と、ずっと頭の中に糸編みのことがあります。
それに編むことを休むと、手の感覚が戻るまで少し時間がかかってしまうので、毎日編むようにしています」
そんなmanamiさんにとって、“編むこと”は自分と対峙する時間でもあるそうです。編むことに没頭していると、まるで宇宙や地球、自然と一体化するような感覚になることもあるんだとか。
「気持ち が乱れると編み目に出てしまうので、編むときは集中することを意識しています。
集中して編んでいると心の中に空間が広がっていって静寂を感じます。すると、思考や感覚が研ぎ澄まされて良いリズムで編み進めることも、良いデザインやアイデアに出会うこともできます。
さらにこの時間は、私にとって自分自身と向き合う大切な時間でもあります。
糸編みに直接関わらないようなことでも、私というフィルターを通過したさまざまなものや想いが見える時間にもなるからです」
「まだ駆け出しの頃、私の編んだネックレスを手に取ったお客様に『気持ちがこもり過ぎていて重たい』、というようなことを言われた ことがあります。デザインや技術、表現について、ストイックに向き合っている時期だったので、そういうことも作品から感じ取られるのか、と驚きました。
それ以来、明るい気持ちや良い雰囲気が作品に編みこまれるように、ということを意識するようになりました。だから心地良い集中、というのでしょうか。そうできるように、景色を眺めたり植物に触れたり、アロマをたいたりすることで、心を落ち着かせてから制作に取りかかるようにしています」
もっと自由に自分を表現したい
「世の中には膨大な種類の糸があるから、おもしろい糸、好きな糸を見つけてたくさん作っていきたいです。シルクやコットンといった素材にこだわらず、これだと思った糸からデザインを想起させて形にしていきたい。
糸は線にもなるし立体にもなるし、織れば布にもなるし、本当におもしろいんです」
糸編みが楽しい、と声を弾ませるmanamiさんに今後の展望をお伺いすると…
「もっと自由に考えて作りたい、と思うようになりました。
必死に試行錯誤を繰り返しながら私のスタイルを作ってきましたが、最近は、自分のイメージをもっと忠実に具現化したいという気持ちが出てきました。
今後はアクセサリーだけではなく、額装にした作品や、オブジェ的なものも作ってみたい。なんといえばいいのか、インスピレーションしたデザインを大きく広く表現したい思いです」
1本の糸から立ち上がるmanamiのテキスタイルジュエリーの世界がどのような広がりを見せてくれるのか、今後の展開も楽しみです。
SIROKUサイトでは、manamiさんが制作したピアスやラリエットをラインナップしています。ぜひご覧になっていってください。
また、11月19日(土)~23(水・祝)まで、東京・千駄ヶ谷のSIROKUギャラリーにてmanamiさんの糸編みアクセサリー・テキスタイルジュエリーの展示販売会を開催いたします。実際にお手に取って見ていただける機会です、是非お立ち寄りください。
※展示会は終了いたしました。
お越しくださいました皆さま、ありがとうございました。
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manami solo exhibition
□11/19 sat. - 23 wed.
□12時 - 17時
□渋谷区千駄ヶ谷2-28-4-4F
※1階で401を呼び出してください。
※全日ご予約なしでご覧いただけます