やさしさを乗せて届け、陶の動物たち

2022222日の“猫の日”からSIROKUにラインナップした『幸生窯(こうせいがま)』が作る小さな陶の動物たち。手のひらに乗る土の重みや手触り、見覚えのある表情や仕草とやさしい存在感に心を奪われます。
今回は、この動物たちを生み出す幸生窯(こうせいがま)の窯元であり陶芸家の前川幸市さんへのインタビュー。ものづくりと動物を愛してやまない前川さんに、これまでとこれからのお話を伺いました。

信楽の森の中の工房、幸生窯

幸生窯 こうせいがま kouseigama

幸生窯の工房は、信楽焼きで知られる滋賀県信楽町の森の中にあります。窯元の前川幸市さんの父・幸生さんが、40年ほど前に森を切り開いて作りました。前川幸市さんが幸生窯を引き継いだのは5年前。幸生窯で作られる陶の動物たちは、幸市さんの表現へと維新されました。

陶芸家の父を持ち、家業である窯元「幸生窯」を継承した前川さんですが、意外にも若い頃は家業を継ぐことを考えていなかったといいます。
「子どもの頃から何かを作ることが好きで美術系の学校を卒業しましたが、なんとなく将来はスーツを着て働くようなことを考えていました。とはいっても、思い返すと今こうして陶芸をしていることは自然の流れだったようにも思います。」

前川さんが、陶芸を志すことになったきっかけは、大阪での学生生活を終えて出かけたバイクでの北米横断旅でした。
「アメリカのあまりにスケールの大きい自然を前に、何かを作って表現したい、と急に強く思うようになったんです。
信楽にある実家が、それをするためにぴったりな場所でした。」

生活を豊かにするためのものづくり

幸生窯 こうせいがま kouseigama

幸生窯の工房スタッフは、前川さんのご家族やご近所の仲良しさんたち。そして3匹の気ままな猫たちも。

幸生窯が取り組むのは、「心豊かな暮らし」を育むためのものづくりです。
「そこにあるだけでちょっと心が和むとか、目が合うと癒されるとか、そういうものであって欲しいです」

陶の動物たちは、手を動かす工房スタッフの笑い声が絶えないような楽しい工房で制作されているそうで、納得。そんな工房の時間や手作業の良いリズム、空気感を陶の動物たちがまとっています。

幸生窯 こうせいがま kouseigama

陶の動物たちは、前川さんが作った作品を元にした石膏型を用いて作られます。しかし型を使用しているとはいっても、粘土をこねる、型に詰める、素焼きや型押し、色塗りなどはすべて工房スタッフひとりひとりによる丁寧な手作業です。

前川さんが作る1点ものというわけではありませんが、すべての動物たちの顔や色などの仕上がりを必ず前川さんが確認しています。

ところで前川さんご自身は猫派なんだとか。
「犬がずっと家にいたので犬派のつもりでしたが、猫と生活を始めてみたら今ではすっかり猫に染まっています。
もちろんモデルとして活躍してもらっていて、森の中を駆け回る半分野生みたいな子たちなので、そういうところも陶の猫たちに出ていると思いますよ。」

試行錯誤から生まれた質感や手触りを感じて

幸生窯 こうせいがま kouseigama

陶の動物たちからは、前川さんをはじめとする幸生窯のみなさんの愛情が存分に注がれているのを感じます。制作にあたってのこだわりはありますか?
「作った物に対して『好き』かどうかを大切にしています。
それと、制作するにあたってコスト面の妥協や手間の妥協はなるべくしないようにしています」

この陶の動物たちには、実際に実物を見てこそ分かる魅力がたくさんあります。モダンな雰囲気もほっこりする雰囲気もあって、なんだかふてぶてしい顔つきに見覚えがあったり、土の優しい手触りや風合いも…これを写真と言葉だけで伝えるのは難しい!
猫好きの人にも犬好きの人にも、そうでない人にも、この陶の動物たちは是非SIROKUギャラリーで実物を見て欲しいです。
「そうですね、是非手に取ってみてもらいたいです。
土のざっくりとしたマットな質感を出すために、信楽の土をブレンドしたり釉薬の調整をしたり、試行錯誤を繰り返しながら生み出した、自信のあるこだわりの商品です」

ずっと動物、動物をつくるのが楽しい

幸生窯 こうせいがま kouseigama

前川さんは幸生窯でのものづくりと並行して、陶芸や絵本などご自身の作品を制作し発表する作家活動も精力的に取り組んでいらっしゃいます。
こちらでも題材は、犬猫や動物たちです。実在しそうだけど、どこかファンタジーでファニーな不思議な動物たちです。
「陶芸を始めた頃から動物ばかり作っています。父も動物を作るのが得意で、とてもいいものを作るんです。師匠が作る動物にもとても惹かれました。なんだか自然に、ずっと動物なんです」

前川さんの本格的な作家活動は30歳くらいから。はじめは作品を詰めたスーツケースを2つ、両手で転がしながら大阪や京都のギャラリーへ自ら売り込みに行かれていたといいます。少しずつファンを獲得して、現在では定期的に個展を開催しています。2017年には海外パリでも個展を開催しました。

天職、喜んでもらえるものづくりを続けたい

幸生窯 こうせいがま kouseigama

「自分が表現したいイメージを具現化できる楽しさと、作った物を気に入っていただけることが制作のモチベ―ションになっている」とおっしゃる前川さんに、幸生窯の今後の展望を伺いました。
「陶の動物たちは、バリエーションや大きさをいろいろと考えています。
食卓に入り込むような商品や、陶器以外のものも考えています。詳しくは、楽しみにしていてください。
とにかくたくさんの人に喜んでいただけるようなことをやっていきたいと思っています」

前川さんご自身の作家活動ではいかがでしょうか?
「もちろん、おもしろいことをしていきたいです。陶芸も絵も、やっぱり喜んでもらえるようなことをしたいと思っています」

幸生窯 こうせいがま kouseigama

「子どもの頃から陶芸と動物は身近な存在だったし、ものづくりや美術、動物も大好きでした。
だから今の仕事は天職だと思います。ものづくりに年齢は関係ないですからね、80になっても90になってもやっていたいです」

先日幸生窯のインスタグラムに、春を告げる鳥ウグイスの鳴き声が聞こえたとありました。幸生窯と前川さんのアトリエ、お住まいは、自然豊かな森に囲まれています。そこで前川さんは、日本ミツバチを育て、森の木を切り倒して薪を作り、日の出より一足先に起きて猫と共に朝の時間をアトリエで過ごします。

にこやかに優しくお話してくださった前川さんのものづくりに対する想いや姿勢は、構えずにごく自然なものでした。
信楽の森で生まれる幸生窯の陶の動物たちと、前川さんが生み出すクリエイティブな動物たち、今後の展開も楽しみです。

この作家・ブランドのアイテム一覧
すべての読み物 作家・ブランドインタビュー

こちらも一緒に読みませんか?

コドモトオトナヲカンガエル リレオストア
コドモトオトナヲカンガエル リレオストア
ヌメ革のティッシュケースやフラワーバッグ。ありそうでなかった意外な組合せ、想像したこともなかったようなもの、でも使ってみればしっかり生活に馴染んでくれそう!『Lille og Stor(リレオストア)』のプロダクトにはそんな魅力があります。
Read More
素材からカルチャーとストーリーを感じてほしい 京都で作る巾着バッグ
素材からカルチャーとストーリーを感じてほしい 京都で作る巾着バッグ
巾着バッグ”mine-kinchaku(ミネキンチャク)“を作るのは、ブランド『mine(マイン)』のクリエイター高峰賀奈子さん。2021年からアトリエを京都に移し、素材にこだわったアクセサリーや巾着バッグなどを作られています。mineのア
Read More
秩序と余白、律動を感じて -manamiの糸編みアクセサリー
秩序と余白、律動を感じて -manamiの糸編みアクセサリー
大胆なデザインで魅せるmanamiのテキスタイルジュエリー。糸編みの立体感や素材感が作り出す美しい陰影が魅力です。今回は作家のmanamiさんに、糸編みとの出会いからアイデアが生まれる背景、アクセサリー制作へ込める想いについて伺いました。
Read More